人生最高のプレゼント

2019/11/02 NOTEでの記事


私はもう14歳になるメス猫と一緒にニューヨークで暮らしています。 一緒に暮らし始めたのは4年前ですが、出会いは10年以上前。

私は当時、社会現象とまで言われていた海外ドラマ SEX AND THE CITYのスタイリングを全て担当し アンダーグラウンドのカリスマから一気にスターダムにのし上がった PATRICIA FIELD(パトリシア・フィールド)の下で 専属のグラフィック・デザイナーとして働いていました。



私がパットの下で働き始めた当初、彼女はSEX AND THE CITYの映画を撮影している最中で 彼女のもとにはたくさんの企業からデザインの企画が持ちよられており そのグラフィック関連を担当していたのが私だったので、ミーティングの際はディレクターに同伴し、働き始めた当初から頻繁に彼女の家を訪れていました。 動物好きの彼女は、年寄りのジプシーから買ったという2匹のプードルと、もともとは捨て猫だったというシャム猫の雑種を飼っていて、私はその猫が大好きでした。 薄いブルー・グレイの宝石の様な瞳を持ち、黒い毛が大理石のようにまだらに混ざったその毛並みがとっても素敵で 上司でありながら当時は雲の上の存在のように感じていたパットに、なんてぴったりのオシャレな猫なんだろう!と まるで誰かに一目ぼれした時の様な衝撃を今でも覚えています。 ギリシャ系アメリカ人の彼女はその猫に”KARIOLA”(ギリシャ語で”アバズレ”という意味)という名前をつけていて 私はその猫を「カリちゃん」と呼ぶことにしました。 誰それ構わず人懐こいタイプではないというその猫は 初めて会った時から私に懐いてくれ 彼女の家に行くたびにその猫に会う事が私にとっての密かな楽しみでした。



数年後、ダウンタウンに新しい物件を購入した彼女は それまで住んでいた大きな家をリノベートし、そのスペースはそのまま彼女の経営するブティックの新しい店舗に変わる事になりました。 彼女の新しい家は高層マンションで、日当たりの良い広いバルコニーがあり 当時中庭でしょっちゅう鳥を捕まえては遊んでいたカリちゃんがバルコニーから飛び出して落ちてしまうのを心配した彼女は、カリちゃんをしばらく店舗に置いたまま飼って様子を見ることにしました。 悠々自適に暮らしていた自分の家が突然店舗に変わり 大好きな飼い主も一緒に育ったプードル達も引っ越してしまい たった一人、置いてけぼりをくらったカリちゃんは完全に心を閉ざし 小さなランドリールームの洗濯機の裏から全く出てこなくなりました。 パットは相変わらず外のプロジェクトに大忙しで 店舗に毎日来る事も出来なかった為 店舗の中のオフィスで働いていた猫好きな私がカリちゃんの世話を任されるようになっていったのはその頃からでした。


カリちゃんは一日の大半を洗濯機の裏で隠れて過ごし、初めは私がごはんをあげるその時間しか出てきてくれず 私は毎日仕事が始まる前と終わった後に、そのランドリールームでカリちゃんと二人だけの時間を過ごすようになっていきました。 しばらく経ち、カリちゃんは私の声が聞こえるとランドリールームから恐る恐る出てくるようになりましたが、別の人間を見ると足がすくんだようにそれ以上出てくることができず 従業員が全員帰った後、私はカリちゃんをランドリールームから徐々に連れ出し、誰もいないお店の中を一緒に散歩するのが毎日の日課となりました。 それから数か月かけて、毎日毎日少しづつカリちゃんを他の従業員に慣れさせ、私が名前を呼ぶとどんなに遠くからでも子供のように走って出てくるようになる頃には、私はカリちゃんをまるで自分の分身のように可愛がるようになっていました。 動物も人も、心のケアができれば自然と元気を取り戻すものです。 カリちゃんは徐々に元気で社交的になり、それから1年後には立派なお店の看板猫になって猫好きのお客さんを楽しませる存在になっていきました。


仁平 綾 ニューヨークの看板ネコ


それまでも家族で動物を飼ったことはありましたが、動物をまるで自分の親友の様に感じたのは人生でカリちゃんが初めてでした。 カリちゃんという新しい友達を得た私は、仕事場に行くのが以前よりも楽しみになり、朝は近所のコーヒーショップでコーヒーを買い、仕事を始める前にカリちゃんの横で朝のコーヒーを飲むことから始まり、一日に何度も理由をつけてはカリちゃんに会う為にオフィスを抜け出していました。 カリちゃんという小さくて大きな存在は 家族のもとを離れ海外に住む私にとっては本当にかけがえのない存在で 何時しかカリちゃんは私の心の一部のようになっていきました。


数年後、私は7年間お世話になったパットのもとを離れて新しい仕事をすることになり 新しい生活に胸を躍らせる半面、大好きなカリちゃんと離れることだけが私の心残りでした。 カリちゃんはその頃オフィスの中で一日を過ごすようになっており 発送するはずの商品を毛だらけして顰蹙を買う事もありましたが 勤務時間内は私の机のそばから常に離れることはありませんでした。 私がお世話を始めてからというもの、パットは安心してカリちゃんを私に任せっきりにしていたので なかなか今までのように可愛がることは少なくなっていたものの 私は彼女がカリちゃんの事をきちんと気にかけているのはわかっていました。 仕事には鬼のように厳しいパットですが 動物や子供には人が変わったように優しく接する一面があり それは彼女の本当の部分が露出する瞬間でもありました。 いくら世話をしていたとはいえ、世話係は世話係。 カリちゃんはパットの猫だという事は理解していました。 ましてや仕事を辞めていく私を信用して自分のペットを譲るなんて 絶対にありえない。


カリちゃんは、私が自分を捨てたと思わないだろうか。 またあの時のように、人間に心を閉ざしてしまうのではないだろうか。 カリちゃんと会えなくなることを考えると胸が締め付けられるように悲しくなるので 私はあまり感傷的にならないように せめて最後の日まできちんとお世話をしようと 何も言わずに最後の日に向かって淡々と仕事の整理をしていたある日 パットから休日に電話がありました。


「カリはレイコと一緒にいる事だけがHAPPYなのよ。 あんなにあなたといて幸せそうにしているカリを私は今以上に幸せに飼ってあげられる自信がない。カリを貰ってくれる気はある?」


カリちゃんと私は晴れて一緒に暮らせるようになり あれから4年経ち、住む場所が変わっても カリちゃんは相変わらず私の作業机で多くの時間を過ごし カリちゃんと私の楽しいコーヒータイムは続いています。

おうちのサイズは小さくなったけど 快適な家で幸せな老後生活が送れているかな?


私はパットから本当にたくさんのものを学び、受け取りました。


教科書通りのもの作りからは何も生まれないという事 ものを作る際は、ひとつひとつに「ストーリー」を作る事 自分のスタイルを確立する事 アンダーグラウンドのシーンから生まれるカルチャーや、その中で楽しむ方法から レッドカーペットを歩いたり、私達が絶対に立ち入れないような場所も、全てパットが連れて行ってくれました。 そして 自分を自分で守らないといけないという事 ニューヨークで生きていくという事 夢を追い続ける事


でも彼女が私にくれた最後で最高のプレゼントは 大好きなカリちゃんでした。

パット、ありがとう。 カリちゃん、ありがとう。 これからも、よろしくね。 元気で長生きしてね!



REIKO LAUPER

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